______雲を踏む



半世紀に1度という大雪後、鳴神山へ赴く。
登山口序盤から辺り一面白銀の世界だった。
歩き慣れた道の面影も踏み跡もなく少し躊躇するが、

敷き詰められた真っ白な雪の上に青白い足跡が帯状に伸びていた。
無言の案内役だ。20cm以上深く沈んでいる先人の足跡をゆっくり辿って行く。
雪が深い箇所もあるが、雪の薄化粧した山肌はところどころ地肌が露わになっていた。
杉林が続く中盤までは柵のような杉ばかりが目につき、視界は縦に切られている。雪の白さよりも杉の幹の色の印象が強い。

杉林を抜けるとがらりと印象が変わる。
視界の上半分を青い空が占め、すり鉢状の山の斜面を雪が厚く覆っている。
真っ白な画用紙の上部に青い絵具を塗っただけの世界は広遠で開放的だった。
50cm超の雪で覆われた厚化粧の山肌は舞妓のなめらかで柔らかなうなじを喚起させられる。
時折うねりをみせる雪肌は雪の波紋のようであった。
白肌に触れた男の指紋の後が消えぬまま残っているかのように。
恐る恐る極上の柔肌に足を踏み入れる。
粉砂糖のような雪に吸い込まれるように足は沈むが硬い地面までは届かず、マシュマロの上に留まり浮かぶ。
沈みもせず、溶けもせず、ただ漂流のみを許される柔らかな女の肌の上をふわふわと浮かぶ。
まるで雪の波間に浮かんでいるようだ。

それにしても一歩ごとに得体のしれない物体に足をとらわれ、ふり払うように歩くのはなかなかの重労働だ。
白銀の砂の下にはアリジゴクが待ち構えているのだろうか。
それとも雪の精だろうか。
雪の下に潜む妖精が私の足に絡み、行く手を阻む。
小さな小さな雪の精が懸命に邪魔しようとする光景に思わずくすっと笑ってしまう。

山が雪色に染まっているからか、冬の空気が透き通っているからか、見上げた空が眩しいほど青く、迫ってくる感じさえする。
青空が落下してきそうだ。雪の波間に揺られながら、自分が雲海を歩いているような気がしてきた。

雪は地上に堕ちた雲なのか。
山に眠る生命を守るため、地下で育んでいる生命達が無闇に踏まれぬよう、雲は雪となって降り積もるのだろうか。
足にふわふわとまとわりついてくるのは雲の精だろう。
行く手を阻んでいるのではなく、新たな生命に気づけ、もっと優しく歩けと叫んでいるのかもしれない。
雲の精は生まれいづる者達の守り神なのだ。

生命の胎動に想いを馳せながら、静かに雲を踏む。
色鮮やかな生命達の舞がもうすぐ始まろうとしている。
雲を踏む。春よ来いと口ずさみながら。


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鳴神山愛する会

Author:鳴神山愛する会
ようこそ鳴神山へ!
主に季節の見どころ(花メイン)と登山道整備の記録を綴っています。
なにぶん素人ゆえ、花の同定には間違いが多いですがご了承下さい。
行政でもなく、営利目的でもなく、ひたすらに山を愛する山男達の登山道整備を記録しています。
何気なく歩いている山にどれだけ多くの手、愛情が加えられているかを
是非知っていただきたいと思っています。

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